翌日の17時過ぎに、レオナルドさんに連れられ、やって来た場所は、見るからに高級なレストランでした。私は弾む胸を抑えながら白蘭様の到着を待っていました。白蘭様との外での食事など、本当にどれくらいぶりなんでしょうか。今の私はきっと、デザートを待ち切れない子供のようでしょう。

注文を取りにきたウエイターに、下がって頂き、仕事が長引いているであろう白蘭様をただひたすらに待ち続けました。私が此処へ到着してから約30分が経過した頃、ウエイターが再び注文を取りに来ました。けれど、白蘭様はまだ到着しておられません。私は再びウエイターに下がって頂きました。

それから1時間、2時間、そして3時間。白蘭様の姿はまだ見えません。その間、何度も注文を取りに来てくださったウエイターは既に呆れた表情を浮かべていました。仕事で何かあったのでしょうか。持たせてくださっていた携帯電話を取り出し、白蘭様に電話をかけようとしたその時でした。カランと音を立てながら開いたレストランの扉の向こう側に、私が待ち侘びた白蘭様の姿がありました。けれど、白蘭様のお召しになられていた時計は、仕事用のものではなく、プライベート用のもの。おまけに、鼻につく女物の香水の匂いが漂いました。

私は沸き上がる感情をぐっと飲み込みました。それは、白蘭様が此処へ来てくださったからです。何をしていようとも、確かに此処へ来てくださったからです。

菜摘チャン、遅れてごめんね。実は仕事にキリがつかなくて、これからすぐ戻らなきゃいけないんだ。ところが、店内へと入ってきた白蘭様がおっしゃった言葉に、私は一気に地獄の底へと突き落とされたのです。そして何も反応出来ないままの私に、白蘭様は背を向けて去って行ってしまわれました。

外で待っていたレオナルドさんが、白蘭様と入れ代わりに店内へと姿を現し、取り残された私を困った表情で見つめていらっしゃいました。どうか同情などお止め下さい。私を哀れむのはお止め下さい。

窓際へと視線を移しました。そこにはレストランの前に止められた白蘭様を乗せておられたであろう車と、それに乗り込んだ白蘭様の姿が見えました。そして、ほんの一瞬、車の中にあの女性の姿も見えました。

沸々と沸き上がるこの感情の矛先を、私は何処へ向ければいいのでしょうか。視界が少しずつ霞んでいきます。悲しいのか、悔しいのか、それすらもわかりませんでした。

けれど苦しいのは今だけなのでしょう。もう少しすれば、何も感じることはなくなるのでしょう。何故なら、全ての終わりがすぐそこで待っているからです。




(もうすぐ雨は止む)